趣味でレザークラフトをしているという人は、たいていカットされた革(カット革)や端切れ(端革)を購入して制作することが多いと思います。
その時に「なんか作りにくい」とか「イマイチしっくりこない」ということがあるでしょう。
それはその革がかつて動物の皮だったときに、どの部位だったかということに関係してきます。
逆に部位による特性や伸縮方向などがわかれば、カット革や端切れを見る目が養われますし、レザークラフトもより上達しますよ。
今回は革の部位と繊維方向についてご紹介します。
皮と革の構造を知ろう
なぜ部位ごとに特性が違うのかということは、人間に置き換えるとわかりやすいでしょう。
例えば足の裏は体重がかかって、地面と擦れることが多いので丈夫に硬くなります。逆にお腹は食べて膨らんだりするので柔らかめになっています。
同じように動物の皮も部位によって性質が変わってくるわけです。
皮と革の違い
漢字では「革」と「皮」の2種類ありますよね。
「皮」は、レザークラフトで使用できるように鞣す(なめす)前の状態で、「革」は、皮をタンニンや薬品、油などで鞣して、レザークラフトに使える状態にしたものです。
つまり、お店に売っているものは、ほぼ「革」というわけです。
ちなみに皮を鞣す職人や業者のことを「タンナー」と言います。
皮と革の構造
女性であれば紫外線対策とかシミ予防などの化粧品の知識として皮膚の構造を多少は知っているかもしれません。
動物も同じように皮膚の断面はいくつかの層になっています。
皮膚の断面図を見ると、外側に薄い表皮層があり、その下に真皮層、さらに皮下組織と続きます。
原皮(革の原料となる皮)の時点では、この3層があるのですが、革に鞣す前の工程(水浸けや石灰浸け)で除去されます。
そのあと鞣して「革」にするので、レザークラフトで使用する材料としての「革」というのは真皮層だけの状態ということになります。
真皮層はさらに乳頭層と網状層に分かれていて、レザークラフトの革の表面、いわゆる「銀面(または吟面)」が乳頭層、革の裏面、いわゆる「床面」が網状層(コラーゲン繊維)ということになります。
革の繊維方向(伸縮方向)
皮のコラーゲン繊維の密度や絡み具合によって、弾力性や強度、伸縮性などの特性が変わってきます。
また、繊維には方向があり、革から作りたいもののパーツを切り出すときに、繊維の方向(伸びやすい方向)を計算しないと耐久性に違いが出ます。
牛一頭の身体全体の革の図ですが、矢印の方向が繊維の方向になります。動物の皮は繊維の方向に強い(伸びにくい)性質があります。
革の伸びる方向を考えて、バッグや財布などのパーツを切り出すと型崩れしにくい丈夫な革製品が作れます。
例えば、胴合わせのトートバッグを作る場合は、トートバッグに荷物を入れたりすると重力で下方向に負荷がかかるので、下方向に伸びにくく作るのがセオリーです。なので、図のような方向でパーツ取りをします。
トートバッグの持ち手のベルトなどの長いパーツは繊維方向が安定している背筋(背骨のライン)に沿ってパーツ取りをします。
ただし、繊維方向だけでなく、革の厚みや部位によって柔らかさも変わるので、そのあたりも考えないといけません。また、ベリー(お腹部分)は繊維方向がいろんな方向に向いている場合が多いので、メインのパーツには不向きです。
革の部位ごとの特徴
レザークラフトに使用される革はカットされる前は上のようなイラストの形になっています。
ちょうど牛を腹開きで開いた感じですね。端切れやカット革を使う人はあまり見たことないと思います。
端切れやカット革は、これらのどこかを切り出したものなので、場所によって質が異なってきます。
特に端切れは良いところを裁断した後の「残りもの」ということが多いので、良い革に巡り合うのは難しいです。
ベンズ(BENDS)
ベンズは肩(ショルダー)より後ろの部分からお尻にかけての部位です。
この部分は革製品でメインで使用される部分で、繊維の密度や強度が均一で、傷なども少なく丈夫です。
面積も大きいので大型のバッグなどでも使いやすく、幅広いレザー製品に使用されます。
バット(BUTT)と呼ぶこともあります。
ショルダー(SHOULDER)
牛の肩(前足の)を見たことがある人はわかると思いますが、結構出っ張っていますよね。
牛にしては頻繁に動かす部分なので、シワができやすい部位になります。
動かすので柔軟性があり、ベンズと同じく繊維の密度や強度があり丈夫です。
シワやトラ(模様)が出ることが多いので、それを活かした製品に使用されたり、靴の中敷きや馬具などにも使用されます。
ベリー(BELLY)
ベリーはお腹の部分です。
ベリーは繊維の密度が低く、伸びやすく薄いので耐久性は他の部位に比べて劣ります。
その分安価で手に入れることができ、ハギレによく入っていることがあります。
レザー製品に使用されることは少なく、カバンの裏地とか靴のインソールなど使用に影響しない部分に使われることがある程度です。
初心者が小物づくりに挑戦するにはいいかもしれません。(安いので失敗しても痛くない)
床面(裏面)を見たときに、繊維がぼさぼさっとしていたらベリーだと思っていいでしょう。
ネック(NECK)
ネックは首の部分になります。
頸動脈を守る部分でもあるため、厚みはかなりあります。繊維方向も複雑で使いにくいし、面積も小さいのであまり市場には出回りません。
性質的にはショルダーに近く、シワやトラがあることが多いです。
レザー製品として使うには目立たない内装などに使用する程度です。
ヘッド(HEAD)
ヘッドは頭の部分です。牛で言うと頭頂部から鼻にかけての部分ですね。
脳は頭蓋骨で守られているため、皮が厚い必要がないため、意外に薄く強度も弱いです。
通常はあまりレザー製品に用いられませんし、市場にもあまり出回りません。
まとめ:革の部位がわかれば大したもの
レザークラフトを始めたばかりだとハギレの革や小さくカットされた革を購入することが多いと思います。
ただ、皮の性質は部位ごとに特徴があり、作る物によっては適さない場合もあります。
通常ハギレを購入するときに、いちいちどの部位かを教えてはくれないので、自分で見極められると欲しい革が手に入りやすくなります。
私の場合は床面の繊維がとりあえずぼさぼさでないもの(ベリーでないもの)を選びますね。
良質の革が少量欲しい場合は、ハギレではなく、少しお高いカット革を買うと間違いないです。
はじめまして。
拝見したのですが、革の伸びの方向に関しまして、画像の矢印の方向(繊維の方向)が伸びにくく、その直角の方向が伸びやすいのではないでしょうか?
解説文ですと、矢印方向が伸びやすい方向と書かれていますが。
コメントいただきありがとうございます。
確かに間違えていました。
書籍などを参考にしていたのですが、頭の中で変に解釈されてしまったようでお恥ずかしい限りです。
早速修正して、説明ももう少しわかりやすくなるようにしてみました。
わざわざご指摘いただきましてありがとうございます。
今後とも気になる点があればコメントいただければ幸いです。